業務の効率化を目指し、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツール「WinActor®」を導入、現在全学的な活用に向けて取り組まれている新潟大学様に、これまでの経緯と今後の展望についてインタビューをさせていただきました。
※尚、インタビュー時は換気の良い部屋で、ソーシャルディスタンスを取って取材させていただきました。
■導入検討~現在まで
2018年度 RPAによる業務効率化について学内検討を開始
全課に対してRPAを用いて自動化したい業務のアンケートを実施
2019年度 RPAツールとして「WinActor®」を採用
労務福利課にてスモールスタート
2020年1月 RPA推進のため専任の担当者を配置
現在 全学展開に向けて取り組み中
大学入口にて(左から 西山さん、高杉さん、松本さん、諸橋さん)
1.RPAによる業務自動化を検討し始めたきっかけ
どこの大学でも、学内事務業務に関する効率化の検討・推進はずっと継続して行われています。RPAによる業務自動化について、他大学の事例をいくつか聞いたことや民間では導入事例がたくさんあることを知り、これは本学でも使えるのではと考えたことがRPA導入のきっかけになります。その後、独自で調査し、他大学に聞き込みを行う中で、2018年度にRPA導入に向けた本格検討を行うことが決定しました。
まず学内で取り組んだことは、RPAで自動化できそうな業務を調査するための全課を対象としたアンケートを取ることでした。しかし、アンケートを実施した結果、対象業務の洗い出し以外に課題点が浮き彫りになりました。(高杉さん)
画像:高杉さん 総務部総務課長
導入検討の経緯について語る高杉さん
2.RPA導入時に見えた課題点
各部署から効率化したい業務は様々挙がってくるものの、RPAで自動化可能な業務は一部という状況でした。どんな業務が自動化に向いているのか、の理解が浅かったことも原因かもしれません。また、「仕事が奪われるのでは」という不安感を持つ方もおられました。
RPAは「すべてを自動化してくれる」という魔法のツールではないので、RPAに任せられるところ、人にしかできないところ、そして人が判断すべきところを正しく理解してもらうことが大切だと感じました。(高杉さん)
3.RPA導入の初期段階で気をつけた点、気づいた点
初期段階で気をつけた点ですが、まずはスモールスタートするということです。労務福利課からスモールスタートしたのですが、当時、労務福利課では紙を使用した業務が多く、申請された書類を見ながら課員がシステムへ転記する単純な作業に多くの時間と労力がかかっていました。紙ベースだと、RPAによる自動化が難しいため、まずは書類で提出されるところをExcelにしてもらうこととしました。うまくロボットを活用するために運用の見直しも行いました。電子データになったことによりRPAがそれを読取り、人に代わってシステムへ転記することが可能となりました。労務福利課の数ある業務の中の1つでしたが、初めが肝心ということもあり、シンプルな業務で、少し運用を変えるだけで自動化できるものを選別し学内で初めて自動化に成功しました。(高杉さん)
4.RPA推進部署からの視点(情報企画課)
気づいた点としては、RPAのような新しい技術の導入では、「やってみよう」という前向きな姿勢をもって取り組むことがとても重要だということです。私は現在、主に財務・会計系の業務、人事・給与系の業務の自動化を進めているのですが、例えばヒアリングの際、私が『この業務は自動化可能だな、格段にラクにできるぞ』と思った業務でも、現場の方が業務フローを変える事に不安を覚えたり、『なんだか面倒そうな事を言ってきたぞ』と感じているんだろうな…といった空気になるケースもあります。わかります。私も立場が逆ならそう感じているかもしれません。そして第一印象で失敗すると、挽回は容易ではありません。
改善策として、ファーストコンタクトの際、身近な業務(資料のダウンロード作業や基幹システムへの入力作業)のシンプルなロボットを持参することで理解を得やすくなりました。ただ私の営業力不足も否めませんので、学内の営業活動に関しては思い悩む日々です。
本学の労務福利課を含む総務部では、若手メンバーが中心となり、非常に前向きな動きを見せてくれたことが、自動化成功のカギになりました。ひとつロボットが稼働すると、『この業務も自動化できないかな?』『部局から提出してもらうデータをこうすれば自動化できるね』という気づきがたくさん生まれました。
この動きは財務・会計系の若手職員でも起きています。RPAで喜んで貰えると嬉しいですし、私のモチベーションも上がります。どうせやるなら楽しく前向きに改善したい。他部門に展開する際にも、その観点は大切にしたいと思っています。(西山さん)
画像:西山さん 学術情報部情報企画課主任
RPA導入は現場のモチベーションをどうやって上げていくかが重要、と西山さん
5.現場部署からの視点(人事企画課)
まずは総務部労務福利課にてスモールスタートで先行運用し始めたんですが、横で見ていて、これは業務の「自動化・省力化」に寄与できる、人事企画課でも活用できると個人的に思っていました。人事に関する業務は、基本的には「紙」でのやり取りが多く「これは業務効率化したほうがいい」と思う業務が結構あります。
総務部は残業時間の削減を推進していく立場ですが、にもかかわらず「かなりの時間残業している」となっていては本末転倒です。その観点からも、総務部から率先して業務効率化、残業時間の削減をしていきたいと思っています。(松本さん)
画像:松本さん 総務部人事企画課人事係主任
残業時間削減を推進する総務部から率先して業務効率化をしていきたい、と松本さん
6.現場部署からの視点(研究推進課)
まだ私の部署では、RPAの導入はしていない(※リリース待ち)のですが、西山さんから話を伺った時は、すごく効率がいいし業務改善になると思いました。
最初は、西山さんと学内での立ち話程度から始まりました。「こういうものがあるんだけど・・・」的な感じで。ただ、直ぐにはピンとこなかったです。それから「こんなこともできる」「あんなこともできる」と説明をしてもらって、実際の業務にRPAを組み入れて動かしているところを見せてもらった時に、「早いし」「間違いもないし」すごくいいと思ったんです。
その後、「他大学でこんなロボットが動いてるけど同じ業務してませんか?」「科研費の電子申請ってどこの大学でも共通ですか?」と西山さんから提案や質問があったり、私の方から提案を出したりと情報交換を重ねた結果、自動化に向いていそうな業務をピックアップすることができました。
もうすぐ、いくつかのロボットがリリース予定です。業務が効率化されることで、我々事務職員だけでなく、教員の方々の負担も軽減できるというところが重要だと認識しています。大学はまだまだ書類仕事が多く、煩雑だと感じている教員も多いかと思います。RPAの転記処理や自動入力を活用することで、より教育や研究の時間を確保できるよう改善を進めています。(諸橋さん)
画像:諸橋さん 研究企画推進部研究推進課研究資金係
職員だけでなく、教員の負担軽減を実現したいと考えている諸橋さん
7.全学導入に向けて取り組んでいること
RPAの導入には、RPAを正しく理解することが大切です。「どのような業務がRPAに適しているのか」「どこまでをロボットにさせて、どこを人間が行うのか」を判断する人が必要です。その判断ができる人がいるかいないかで、学内の展開は1歩も2歩も変わってきます。
そこで本学では、まずは専任の担当者を置くこととしました。約450名いる事務職員の中から専任者1名を選出し、2年間RPAの導入、展開に取り組んでもらうことにしました。
大学は長年続けてきたことを変えることに対して、ハードルを越えるために少なからず時間を要することがあります。そこで本学では、この専任者が各部署へヒアリングしたり、一緒に取り組んだりしてRPAの啓発活動を行っています。その結果、業務を見直す機会になったり、新しい技術(RPA)のメリットが浸透してきたように思われます。本学のRPA推進も着々と進み出すことができました。これから、さらに大きく進行することを期待しています。
ロボットができることは、人間でもできます。でも、人間にしかできない業務が確実にあります。本来、人間はそこに注力すべきなのです。その考え方をもつことが「変わる」きっかけとなります。意識を変えていくことが大切だと思います。(高杉さん)
8.WinActor®を選んだ決め手
正直なところ、WinActor®以外のRPAツールでも、実現できることに大きな差はないのかなと思っています。しかし、他社製品は画面構成が英語であったりと、プログラムの経験をもたない職員が運用するのは困難と考えました。純国産で馴染みやすいインターフェースであることや、マニュアル資料などもしっかりと日本語で構成されている点、広く導入されている実績などを考慮してWinActor®でスタートしてみよう、となりました。
また、エデュースのアドバイザーがすごく良かったのも決め手です。これは今考えると本当に重要なポイントでした。エデュースのアドバイザーは、トライアル期間(お試し期間)中、「シナリオ作成」や「電話・メールでの問い合わせ」など細かい点でフォローしてくれました。導入初期の不安な時期をきめ細やかにサポートしてくれたことは、『これならRPAで大きな成果を出せるのではないか』、の手ごたえを十分に感じられるものでした。他の業者ではシナリオ作成のアドバイスよりも、ユーザーの教育に重きを置くところも多いように見えます。もちろんそれも大切でしょう。しかし、学内でRPAについて相談できる人が誰もいないようなスタートアップ時に、『聞けばすぐ解決する』『ノウハウを持っている人が助けてくれる』という安心感は推進担当者をガッチリと支え、余計な悩みや考える時間を取り除いてくれました。これは現在のサポート体制でも継続していただいており、大変助かっています。(西山さん)
9.今後の展望
本学では、全学的なRPA活用を目指しています。今後は導入事例を学内向けに発信し、各部署への啓発活動をさらに活発化させる予定です。現在リリース済、リリース予定のロボットは当然本学の業務や基幹システムに対応したものです。大学は数年おきに異動があり、担当外の業務についても知識・経験を持っている職員が少なくありません。本学の業務端末で動いているロボットを見れば、RPAをスムーズに理解してくれると思っています。RPAに対する理解が進んだ先に、担当業務の中で、あれもできるかな?これはどうだろう?と自ら考えて、アイデアが出てくることを期待しています。
こんなこと言うと元も子もないのですが、業務改善の解決策ってRPAだけじゃないですよね。手段の1つにすぎない。業務全部をRPAにする事が目的でもないです。でもRPAを理解していることで、閃くアイデアがあると思います。そのためにも、RPAの良さを広く理解してもらいたい。今後は動画なども活用し、なるべく直接現場の担当者に届けられるような仕組みを構築したいと思っています。
(西山さん)
10.エデュースへの期待・要望
RPAがブームになって数年、恐らく多くの大学がRPAの導入に踏み切れていなかったり、大学独自で試行錯誤してロボットを作っている状況だと思います。エデュースにはWinActor®を導入している大学(特に国立大学)の事例をたくさん共有してもらえると嬉しいです。国立大学は横のつながりもありますし、財務や人事給与等の基幹システムは同じシステムを使用している大学も多いです。また、科研費の事務手続き等、同じような業務フローも存在しているのではないでしょうか。事例を共有することで、ある大学で作ったシナリオを他の大学へ流用したり、他大学の事例を知ることが自動化の気づきになったり、いろいろな相乗効果も期待できそうです。エデュースには、RPAを通じて大学同士を繋げていただければと思っています。(西山さん)
新潟大学プロフィール
新潟大学は、新潟市に本部を置く、1949年に設置された国立大学。大学の略称は新大(しんだい)。高志(こし)の大地に育まれた敬虔質実の伝統と世界に開かれた海港都市の進取の精神に基づき、自律と創生を全学の理念に掲げています。日本海側ラインの中心新潟に位置する大規模総合大学として、環東アジア地域を基点に世界を見据え、教育と研究及び社会貢献を通じて、世界の平和と発展に寄与することを全学の目的としています。
株式会社エデュース コンサルティング部
学校専門のコンサルタントとして経営改善、業務改革のプロジェクト等に従事。
全国の学校に対してRPAを利用した業務改善を行っている。